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​あんどう

​親愛なる友へ(ロケットとヨンドゥ)

 

 

「ふぁ~…」

ペタペタと廊下に自分の足音だけが(ドラックスのいびきを除いて)響く、深夜3時手前。ピーターは気を抜くと落ちてくる瞼を何とかこじ開けて見回りをしていた。確か船内を回るルートも時間も決まっているのだが、眠すぎるのでとりあえずフラフラと回る。常に誰かの声が響いている廊下も今は静寂に包まれ、窓からは月の光がぼんやりと差し込み…今日は半月なのでさほど明るくはないのだが。兎に角、特に船内に異常は見られずいつも通りの夜だったのだ…

「密会か?ロケット」

小型船に乗り込もうとする仲間を除いては。

「チッ、ちゃんと決めたルール通りに回れよなスター・マヌケ…関係ないだろ、黙って寝とけ」

「オイ、関係ないはないだろ。どこに行くかだけでも言ってけよ、もうこんな時間だぞ?」

いつもなら反論するところだが眠気には勝てず、言い返せないままに質問を投げかける。いくら常日頃喧嘩ばかりの奴だろうとこんな時間に出かけるなんてさすがに心配なのだ。

「こんな時間?ハッ、生娘じゃねぇんだし気にすんじゃねぇよ…2時間くらいで帰ってくる」

ロケットはそう言い残してさっさと小型船に乗り込み出ていった。

「気にすんな、ねぇ」

付いて行こうか暫く悩んだが本人が心配するなと言っていたし、それに何だか俺が触れてはいけないような雰囲気を感じて足が動かなくて…そうだ触れない方がいいこともあるのだ、と自分に言い聞かせて半分夢心地でフラフラと自室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

「おはよう、ねぇピーター」

「ん?どうした?」

「花がないのよ、何処か知らない?操縦室に置いてあった花」

ガモーラが花瓶を持ってぷらぷらと揺らす。まだ帰ってきていないらしいロケットについて聞かれるのかと思ったが話題はどうやら花のことらしい。

「あ、あのドライフラワーみたいになってた花のこと?知らねぇなぁ…いつからないんだ?」

「寝る前はあったと思うの。グルートもこんな大きさじゃあれは食べ切れないだろうし…何処行ったのかしら?」

「アイアムグルート!」

グルートも知らないらしい。まぁドライフラワーというよりもいつ捨てるのか?と聞きたくなるような枯れ具合だったのでロケットかドラックスが捨てたんじゃ…と一瞬思ったがアイツらはそこまで気が回らないからあり得ないな。

「どこ行ったんだか…そういやロケットは?」

花の行方は皆目見当もつかないのでアイツの話に逸らしてみる。

「さぁ見てないわね、グルートもいるし寝てるんじゃない?」

「おい、小型船がないけど誰か出てるのか?パンダが出てるのか?」

相変わらず最悪のタイミングで登場するんだなドラックス。おはよう。

「…ねぇ、昨日の見回りはピーターよね?本当に何も知らないの?もしかして何も知らないフリしてロケットの話を振ってきたの?」

「いや、それはさぁ…」

「何?言い訳なら聞かないけど」

あぁこれは逃げられそうにない。ったくあいつ本当どこ行ってんだよ、昨日付いていけば良かった…何もかもロケットのせいだ、このクソ野郎!ゴミパンダ!!

 

 

 

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「メンテナンスを俺に?」

「あぁ、月一でどうだ?」

買い出しに寄った星の酒場で偶然出会ったヨンドゥにそう言われた時は驚いた。ラヴェジャーズで馬鹿みたいに稼いでる奴がアホ息子の仲間になんか自分の武器の手入れを申し込むなんて。

別に引き受けても良かったのだが、月一でわざわざ会ってまで修理してやる仲ではない。

「…やだね。何でテメェのを修理しなくちゃならねぇんだ。そりゃ武器自体は魅力的だけどよ…金もってんだからもっとしっかりしたとこに頼めるだろ?まぁ俺の腕前は間違いなくどこよりも良いけどな。悪いが何も利益になんねぇことはしない主義で」

「報酬は弾むぜ?」

「おい何ちまちま酒なんか飲んでるんだ、早ぇこと色々決めちまおうぜ」

こうしてメンテナンスの契約は成立した。

半月になる日の深夜2時にこの酒場の奥の個室に集合し、報酬は前払いで渡す。これが一応の決まりとなった。酒を飲みながら悪名高きラヴェジャーズの船長の武器をいじれるなんて俺にとっちゃまぁまぁの好条件で(キツイのは修理の間ずっと青オヤジと2人ってことだけ)二つ返事で了承した。グルートが小さくなって少し経った時のことで、月が綺麗に真っ二つになっている夜だった。

 

 

 

 

 

「その酒どこのだ?」

「テラ星のジャパンってとこの酒だな。俺のお気に入りだ」

「こいつはうめぇな、キープしといてもらおうぜ。この酒は?」

「それは俺が持ってきたやつ。クラグリン特製の…」

「アイツ酒も作れんの?」

「最近ハマってるみたいでな。お前らも生きてりゃいつか見るだろうがアブリスクってヤツの体液を使って」

「ウゲェ!」

「汚ねぇな、ジョークだよ。なにも吐くことねぇだろ?」

「お前の冗談は分かりにくいしタチが悪りぃんだよ!どこからがジョークかすら分からねぇ」

「うるせぇアライグマだな」

「アライグマと呼ぶなって何回言ったらわかるんだよ青オヤジ!」

「なんか言ったか?」

メンテナンス中にこうして言い合うくらいには互いに慣れてきた…といっても修理はいつも2時間くらいで終わるので大した話はしない。もちろん俺とヨンドゥが会ってることは仲間にバレてない(悪巧みがバレたことは一度もないってのが俺の自慢だからな)が、最初の頃はマジで気まずかった。だって俺たちには何も共通点がない。

「おし、あとはヤカを磨けば終わりだな」

「そうか……なぁ、あのバカ最近どうだ」

「あぁ、懲りずに毎日ガモーラに怒られてるぜ。俺のせいの時もあるが…まぁいつも通りクソ元気だよ」

この青オヤジもといバカ息子大好きなバカ親は修理が終盤になると必ずピーターのことを聞いてくる。ったくめんどくせぇこった、かく言う俺も大した情報は言わないが。

ある日、いつものようにそう聞くとヨンドゥは暫く何も喋らなくなった。いつもはむず痒さを誤魔化すように他の話を始めるので変だと思ったが、俺が片付け始めた頃にやっと口を開いた。

「……アイツは周りが見えなくなる時があるんだ、その時は止めてやってくれ」

「あ?何だ今日は随分しんみりしてんのな。愛息子が恋しいか」

冷やかしてみるが、笑わないし怒らない。

「こうやってあいつとゆっくり話したことなんて片手で数えられるくらいだ」

「お前の方が話してるんじゃねえか?」

「アライグマが息子だったら毎日腹が痛くて仕方ねぇだろうな」

カラカラと笑う。

「アイツはまだ俺にとっちゃクソガキのままでなぁ…会う度に殴ってやりたくなる」

「元気にしてんならそれでいいさ」

ぽつり、ぽつりと。俺に聞かせるためでなく自分に言い聞かせるように話している。舌ったらずな話し方だから多分酔ってるんだがその言葉はきっと本心だろう。

「…やめろよ、死ぬ予定でもあんのか?」

返事はなく、じっと俺の手元を虚ろな目で見ながら黙っている。

「ジニアって知ってるか?アライグマ。テラの花だ。そういやジャパンでは"ヒャクニチソウ"って言うらしいなぁ…俺がこの世で1番好きな花だよ。赤に紫にいろんな色があるが白が1番でな、あれは綺麗だ」

グラスを空に掲げ酒を窓から見える月の方に透かしながら話している。相当酔ってるらしい、何が言いたいのかわからねぇがそんな時は黙ってるのが1番いい。

「…アライグマと呼ぶなっての」

生憎今日は雲が多く月がほとんど見ない。

 

 

 

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「え?あの花ガモーラが買ってきてんじゃねぇの?」

「違うわよ。私は貴方が買ってきてるのかと思ってた」

「まさか!もし買ってくるんならもっと邪悪そうな花選ぶよ」

人喰い花とか、と声が聞こえてくる。またピーターがアホみてぇなことを言ってるが、ガモーラの無視は見事なものだ。

小型船を置き、軽くメンテナンスをして操縦室に向かおうとするとこれだ。タイムリーな話すぎて入るのを躊躇ってしまう。

「でも綺麗な花よね」

「あんな華奢な花似合わねぇのに」

うるせぇ俺だってそう思ってるよ

「青い花にすればいいのに、この花の種類って白しかねぇのかな?」

仕方ねぇだろ、お前のクソ親父が白が一番だって言うんだから

「でも何でいつも一輪だけなのかしら?花瓶も大きいの買ってきたのに」

「そりゃあれだろ、買ってくるやつの金がない」

うるせぇお前よりはある!そう言いながらドアを開けようとした瞬間だった。

「でも俺この花どっかで見たことあるんだよな、ガキの頃かな?」

…あぁそうか、テラ星の花だもんな。もしかしたらあいつとこのマヌケの思い出の花なのかもしれない。

「そうなの?テラの花なのかしら」

「いや、よくわからねぇけど…やっぱり白が一番綺麗なのかもな。いつも月の光吸収してるみたいになってんな、って思ってた」

『月の光を吸収するみたいに純白なんだよ』

ヨンドゥの顔が浮かび、手に持っている白い花束を見る。やっぱりこいつら似た者親子だな、とつい笑ってしまった。

「お、帰ってきたのか。こいつが煩くて仕方ねぇんだよどうにかしろ」

「アイアムグルート!アイアムグルート!」

「煩いのはテメェのイビキだろうが。どけどけお前らロケット様のお帰りだぞ」

「あっテメェどこ行ってたんだよ!2時間でかえるっつったじゃねぇか!」

「ちょっとピーター、貴方さっき何も知らないって言ったじゃない」

「いや、あのさぁ」

「ギャーギャー騒ぐんじゃねぇよ」

「ロケットもロケットよ?連絡なしに丸一日いなくなるなんて何してたの」

「あ~、飲みに行ってた」

「1人でか?寂しいなぁゴミパンダは」

「ゴミパンダと呼ぶなスター・マヌケ!…いや、知り合いと飲んでたんだ。俺とよく似た」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何でもいいから酒を…そう、それとグラス2つ」

相変わらず酒場に人はほとんど居らず、店主は仏頂面でだんまり。もう通い出して随分になるが相変わらず俺にキープはさせてくれず、あの酒だけがずっと端に置いてある。

「この酒高ぇんだよ、ずっと俺の奢りじゃねぇか。そろそろあのテラの酒も飲みてぇなぁ…お前じゃないとあのクソ店主出してくれねぇんだよ。次はクラグリン特製の酒でも持って来いよな」

そう呟いても空調の音しか聞こえない。あのクソみてぇな冗談も聞こえない。俺の目の前にあるのは白い花一輪だけ。

「お前一回俺が息子だったら、なんて夢みてぇなこと言ってたけどよ。こっちからお断りだぜ。お前みてぇなクソ親父はあいつにしか合わねぇよ」

言えなかったこと、伝えられなかったことが今になってボロボロと零れ落ちる。俺とあいつは案外共通点があったのかもしれない。

「あーあ、やっぱ一輪だけじゃつまんねぇよな、親父やり切った奴に一輪ってのも味気ねぇし」

そうだ、帰りにもう一度あの花屋に寄ろう。そしてバカ息子にあいつがどんな酒が好きか教えてやろう。友達にしか分からないあいつの顔を見せてやろう。

 

 

 

半月の夜は花が美しく見えるとはよく言ったものだ。

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