
はりもと
ロケットの夏休み(スタロケ・ロケットとコレクター)
「もういい!勝手にしろ!!」
船内中に怒鳴り声が響き渡る。
声の主はその小さな肩に、体の数倍はあろうかという銃と幾ばくかの手持品を入れたリュックを背負い、ミラノ号を出て行った。
「ロケット!ちょっと冷静になりなさいよ」
外まで追って来たガモーラの声と、状況を理解できていないグルートの悲しそうな呻きが背中に届く。だが、制止の声にも耳を傾けることなく、ロケットは木立の闇の中へ消えた。
「アイアムグルート?」
不安げに顔を見上げるグルートを元気付けるように、すぐ帰ってくるわ、と微笑むとガモーラは踵を返した。
ピーターが操縦席に座っている。こちらに背を向けているが、膨れ顔が見なくても想像できた。
「いい眺めね。ロケットが出て行ったの、見てたでしょう?」
皮肉を一つ放って、隣へ腰を下ろす。
「壊そうと思ってやったんじゃない」
ピーターの手には銃が握られている。ロケットがいつも持ち歩いている武器の一つだ。鈍く光り、手入れがよく行き届いているが、本来ならトリガーの付属してる部分がすっかり抜け落ちて内部の金具が覗いていた。その部分をそっと撫でると、ピーターは溜息をついた。
しかし、故意ではなかった…とは、もしかしたら言いきれないかもしれない。
朝からロケットはの手入れにご熱心だった。一度そのモードに入ると周囲の声があまり聞こえない。この日は何故か、それが特に顕著だった。
「ロケット~これ前にお前がイイって言ってたテープ、貸してやるよ」
「ん~…」
「ロケット!グルートの枝切りお前の番だろ!」
「あ~…」
「ロケット~~~これ見ろよ!ドラックスが…」
「あ~わかったわかった」
ずっとそんな調子だったから、ピーターは頭に来たのだった。少しの悪戯心、誰にともなくそう言い訳をして、ロケットが入念に磨き上げているそれを、小さな手から取り上げた。手中の銃が奪われ一瞬呆気にとられた表情を見せたが、すぐに立ち上がる。
「てめっ……クイル何しやがる!返せ!!」
「いやだ」
ロケットの顔が憤怒で歪む。
「おい……スター、ドーロ?……今ならまだ寛大な心で許してやるよ。もう一回だけ言うぞ?その銃を、返せ」
ピーターは口笛を一つ鳴らし、銃を頭上に掲げた。
「取り返してみろよ」
「お前…よっぽど腹に風穴開けられてぇみたいだな!!」
ロケットが全力で掴みかかった。鋭い爪が服の上から食い込み、バランスを失ったピーターがロケット諸共床に倒れこむ。
「ちょっと!何の騒ぎ?」
言い争う声と物音を聞きつけ、ガモーラが駆け寄る。
ピーターがそっちに気を取られた瞬間、ロケットの指先が掠め、床に叩きつけられる様に銃はその手を離れた。乾いた金属音が二人に耳障りな余韻を残す。床には僅かではあったが部品の欠けた銃が、死者のように転がっていた。
組み合ってた体をほどき、気の抜けたように肩を落とす後ろ姿に、とどめを刺すようにピーターが呟く。
「お前なら…また作り直せるだろ」
ロケットの耳がピクリと動いた。身を固くして、小さい体を全力で振り絞るように叫んだ。
「もういい!勝手にしろ!!」
とても大切にしてる物だったのは分かってる。自分が軽率だったことも。だから余計に動けない。何をしても彼の怒りが収まるとは思えなかった。
弱々しく肩を落とすピーターを見兼ねて、ガモーラが声を掛ける。
「きっとまた戻ってくるわよ…この星は巨大なマーケットだから、食糧一つとっても無一文じゃ手に入れられないし…ましてや宿泊地のような場所も無い星よ。…夜には戻るわ」
「…あぁ…」
ガモーラのその言葉で、表情が幾分か和らいだ。
と、慌てたような足音でドラックスが操縦席に駆け寄って来た。
「おい!ロケットはいるか?」
「今出かけてる。どうしたの?」
「便所が詰まったんだ。俺の巨大なウンコのせいだ。今日は特にデカかった。叩けば直るかと思ったが、この船の便所は案外脆い作りをしているな」
聞きたくもなかった詳細を告げられ、ピーターの眉が吊り上がる。
「おい!!俺の船だろ!もっと大切に扱え!!」
がははとさも愉快に笑い出すドラックスから目をそらし、ガモーラが盛大なため息をひとつ。
「ロケットを探しましょう」
昨日から身を寄せているこの星は、ほとんどの住人が店を構え巨大なマーケットと化している。闇市のような不健全な取引こそ横行しないが、その品数と雑多さで多くの宇宙船の立ち寄り場となっており、ミラノ号もその中の一つだ。昨日は全員で食料の買い出しをして、賑やかに1日を終えた。なのに今日になったらこの仕打ちだ。一通り銃の整備を終えたら構ってやろう、などと薄っすら思わないでもなかったのに。
「アホクイル…………」
ロケットの苦々しい呟きは行き交う人混みの中に溶けた。そもそも幼児ほどの体長しか持たないから、いくら自身が気を付けていても無神経な足取りに阻まれる。度々そうやって蹴りを食らう苛立ちも合間って、ロケットは疲弊しきっていた。しばし道端に腰を下ろして通りを眺める。
吊るされた動物の肉が目を惹く。色とりどりの果物、様々な風合いの布地、木材、金属、雑貨類…誰が買うんだと訝しむようなガラクタのような代物も多い。騒めきの中皆思い思いに商品を手に取り談笑している。そうやって当て所なく露天の並びを見ていると、不意に耳をつんざくようなサイレン音が響いた。ウゥーーーーーッと鳴り響くそれに、先程まで押し合いへし合いしていた人達が、我に返ったように足を早める。
マーケットは、夜には全てが店じまいする。今のサイレンはその時間を告げる合図だった。色鮮やかな様相を見せていた露天商も、次々とテントの幕を降ろす。
(今日は野宿か…………)
初めて訪れたこの星に知り合いなどいるはずも無い。諦めて身を隠せそうな木陰でも見つけようと腰を上げた時だった。波が引くように人混みがほどけ、見覚えのある白髪が目に入った。厚いレンズをゆっくりと目から外すと、黒く縁取られた眼窩が現れる。長身の男はたっぷりと間合いを空け、ロケットをしげしげと見つめた。
「君は…ガモーラのペットじゃないか」
顔の筋肉をほとんど動かさず、彼――――コレクターはいささか驚きのニュアンスを込めて発声した。
「彼らは一緒じゃないのか?」
その問いに顔をしかめる。
「いねぇ。………お前、生きてたのか」
暴走した召使いが無謀にもインフィニティストーンに手を出した。その結果、コレクターは収集品諸共吹っ飛んだはずだった。
「あぁ、この通り満身創痍だがね。…オマケに大量の新コレクションだ…」
コレクターは未だ包帯の跡が残る両手に、たくさんの謎の人形や錆色の鉄屑等々を抱え込んでいる。それらを僅かに腕を広げて見せてくる。
「アライグマの手も借りたいんだ。宿無しアライグマのな」
不敵に口元を歪めると、打診するようにロケットの顔を覗き込む。爛々と輝く瞳だが、不思議と悪意のようなものは見えなかった。コレクターの背後に雨雲のようなものも迫って見える。渡りに船、そう思わないと今夜の雨風は避けられないだろう。何より話が早い。
「…この前みてえな花火ショーは御免だぜ。あと俺はロケットだ。次アライグマって言ったら殺す」
コレクターが案内してくれた船は、至宝(コレクターはガラクタのことをそう呼んだ)の収集目的で作られたような内装だった。船内の壁を覆い尽くす大量のガラスケースには、何の基準で集められたか不明な物体が所狭しと並べられている。足元の床も同様にケースが埋め込まれ、ロケットが歩みを進めるたびに、生首人形の、恨めし気な瞳と目が合ったりする。
「相変わらずサイコーな趣味してんなアンタ………」
「光栄だ、ミスターロケット」
褒めてねえ、否定するのも面倒なので黙って後を付いていく。
「ここに寝泊まりするといい、客人用だ」
一つの部屋の前で立ち止まると、コレクターは扉を開けてくれた。中は広さこそ無いものの、シングルベッドにデスクが備え付けられており、落ち着いた照明は清潔で居心地が良さそうだ。何よりうるさく喚く奴らがいない。
「トイレとシャワーはここを出て右の突き当たり。先ほど通ってきた部屋から通じる階段を降りればキッチンがある。腹が空いたらそこで何でも食べるといい」
「わりぃな」
初めて感謝の言葉らしきものを口にしたロケットに満足そうに頷くと、コレクターは扉を閉めた。
後には静寂だけが残った。
荷物を降ろしベッドに腰掛けると、どっと疲れが押し寄せてきて、目を閉じる。
グルートが潜り込んで来たり、クイルのアホみたいにうるさい音楽が鳴り響いたり、ガモーラがドラックスを諌める声が聞こえたりしない。こんなに静かな眠りは久しぶりだな、とロケットは夢うつつに思う。
目を開けたが、窓のない部屋では今が何時かもわからない。鈍くなった時間感覚を引きずってロケットは部屋を出た。
コレクションまみれのホールへ行くと、コレクターがソファで寛いでいた。手持ちのグラスには琥珀色の酒がなみなみ注がれている。氷の音をカランと一つさせて、預けていた背中を起こす。
「おはよう眠り姫。モーニングドリンクは如何かな」
ロケットの答えを待つより早く、サイドテーブルの瓶から液体を注ぐ。
「次俺に姫とか言ったらここの金品全部売り飛ばしてやるからな」
酒を受け取ると、コレクターの隣に腰を下ろす。ソファの背にもたれ掛かったら、小さな体躯の全体がずぶずぶと沈んでゆく。酒を口に含むとほのかな苦味が広がり、喉が熱く燃えた。
「この時間が好きでね」
「ガラクタ眺めてる時間がか?」
「全ての物体には隠された物語がある、それらと対話をするのだ」
「オイそりゃ新手の精神療法か?夜な夜なアンタが独り言ぶつぶつ言ってると思うと傑作だな」
コレクターは酒が入ると少し饒舌になるのか、頼まれてもいないのに目についた戦利品の成り立ちを一つ一つ説明してくれた。ロケットも釣られて軽口が弾む。
極め付きはブルーの宝石が所々あしらわれた王冠を指差し「彼女がここへ来た時は…」と言い始めた時だった。
その相貌に不釣り合いの、彼女、という単語がツボにはいったらしい。ロケットは心底可笑しくてたまらない、という風にきひひひひ、と笑う。その様子をしばらく眺めていたコレクターだったが、唐突にロケットの腕を掴んで引き寄せた。
「!?なっ…」
驚きで見開かれた目に、白髪の男の思いつめた顔が映る。ロケットの首筋、そのがさがさの毛並みを、シルクでも扱うように愛おしげに撫でさする。ため息交じりに、男は感嘆の声を絞り出した。
「美しい…」
「ハァ?」
およそ自分に向けられた言葉とは思えず、眉をひそめる。
「君のその獣なような口元から発せられる低俗な言葉…それに乱されることのない高潔な魂。君からは生の美しさを感じる。体毛で覆われたその身体も、黒く輝く指先も、凶暴極まりない牙も………全てがそのままで完璧なのだ」
「………………(気持ち悪りぃ何だコイツ)」
腰が引けるロケットにコレクターは尚も囁くように言い募る。首筋をなぞっていた手を下へ滑らせ、そっと指先を握る。普段なら払いのけるが、経験のない妙な切迫感に気圧されて何となくできないでいる。
「ミスターロケット、君は自分の美を理解していないようだ。しかし己の美を顧みぬその精神こそが最高の肉体を育むのだろう…。先日はグルートに目を奪われてしまったが何ということだ、君も全くもって素晴らしい」
ロケットの手を両手で包み込むと、口づけを落としそうになったので、慌てて身を離す。
「やめろ!!あとその生命賛歌ポエムも今すぐ!!!」
牙をむき出しにして威嚇すると、我に返ったように身を離す。コレクターは落ち着かなさげに額に手をやりながら項垂れた。
「………すまない。美しいものに出会うとつい我を忘れてしまうんだ。気を悪くしないでくれ」
完全に警戒の目を向けるロケットを取りなすように、すまない、ともう一度謝ると、デスクの引き出しを探る。白い手のひら型のリモコンを取り出すと
「……押してごらん」
と、促した。
「…………このボタンか?」
恐る恐る差し出した指で、かち、と小さな音を立てると、ホール全体の明かりが落ち、真っ暗闇になった。
それと同時に、天井が星空のよ光をたたえ、やわらかに輝き出す。
「プラネタリウムと呼ばれる装置だ。君たちのように宇宙を飛び回ってる連中には馴染みが薄いだろうが…この夜空の美しさに魅入られる人種もいる」
二人を覆う宵闇に冷静さを取り戻し、コレクターが説明をしてくれる。
「へぇ、よく出来てるな」
「装置作成当時の星空を再現しているんだ。今では消えている星もある」
しばし二人はちびちび酒を舐めながら、造られた星空を眺める。
散らばる星々はその微細な瞬きで夜空を彩る。空間を切り裂くように、彗星が流れた。
やがてロケットがその一角を指差し、ぽつりと話し出した。
「あの銀河群で一番輝く緑色の星があるだろ、あれはもう無い。星全体が武器の材料になる貴重な鉄鋼類で出来てたんだが。…採掘し過ぎたんだ、星の核まで重機が入って、ある日諸共ドッカーンさ」
ロケットの赤い瞳が愛おしげに細められる。
「昨日、その話が耳に入った。俺が使ってる銃はその金属を使ってる。もう材料がないんだ。部品が欠けても…修理なんて、出来ない」
先程までの威勢の良さはどこへ行ったのか、耳はすっかり垂れ下がっていた。
コレクターは酒瓶を手に取り、ロケットのグラスへ注ぐ。それをグッと一息に飲み干すと、瞳の赤は更に濃ゆくなった。闇の中のそれは、まるで一等星だ、ひときわ潤むように輝いている。後を追うように、コレクターもグラスを煽った。
「私がグルートに言った言葉を覚えてるか?"君が死んだら、その死骸を引き取らせて欲しい"。一瞬の美しさも捨てがたいが、生命体はその一生に多くの傷を付けながら生きる。私はその、魂が極限まで燃え尽きた先の肉体が欲しいんだ」
物も同じかもしれないな、とコレクターが呟く。
「傷が付いたり怪我を負ったり…時にはその有限の命は呆気なく終わりを迎える。だがそれもまた、良いものだ」
「慰めてんのか、それ?」
コレクターの横顔を見上げ、笑い交じりに揶揄する。
「美についての話だ」
「そうかよ」
この人間の美の観念の中では、片目の人形も使えない銃も醜い傷を負った獣も等しく価値を持つのだ。綺麗事だ、死の恐怖に囚われたこともない金持ちが、言いそうなことだ。
「おめでたい奴だな」
そう切り捨てながらも、口から出たのは案外と柔らかい声色で、ロケットは自分でむず痒く感じる。プラネタリウムには気持ちを軟化させる効果でもあるのかもしれない、そういうことにしておいた。
「おめでたいか。まぁ……良いこともある。世の中にはあらゆる星の金属をコレクションする珍奇な男もいるんだ」
その言葉を聞いて、目が覚めたようにロケットが勢いよく立ち上がる。
「本当か!それ!オイ嘘ついたらタダじゃ済まさねーぞ!!!」
「以前のコレクションに入ってれば分からないが…ここ最近の話だろう?可能性は高い。探してみろ」
「アンタの収集癖が人の役に立ったの初めてじゃねーか?」
「本当に君は口が悪いな」
言葉とは裏腹に口元を緩めると、グラスを置いて立ち上がる。
「さぁそろそろ姫のお帰りだ」
リモコンを操作すると、昼間のように部屋が照らされる。目が慣れずに瞬きを繰り返すロケットの耳に、乱暴な足音が聞こえた。
「ロケットー!!!」
懐かしい声に振り返った。
見慣れた男が金髪を汗で貼り付けて、肩で息をするように立っていた。
「クイル………!」
想像もしなかった人物の登場に、慌てて立ち上がる。思わず駆け寄りたくなるのをグッと堪えた。
「…………何しに来たんだよ。また俺の持ち物を壊しに来たんじゃ……っ」
言い終わらない内に、フワッと体が宙に浮きピーターの腕に抱きとめられていた。
「ごめん。お前の大事なものを壊した。本当に怒らせた、ごめん………俺、ロケットが居ないとダメなんだ。帰ってきて」
綺麗なブルーの瞳に射抜かれて、そんな事を言われては、何も反論できなくなるではないか。これが惚れた弱みというやつなのか、と観念して、顔を埋めてくるピーターの金髪に指を通した。
「いろいろと…ありがとな」
後ろを振り返るようにして、コレクターに呟く。
「……君がちゃんとお礼を言うなんて、初めてじゃないか?」
「次はここの物全部売り飛ばしにきてやるよ」
「やってご覧。私の船は、私が客人と認めた者しか入れないんだ」
顔こそよく見えなかったが、その表情は微笑んでいるような気がした。
「なぁーーーーんで帰って早々便所の後始末なんてしなきゃいけねーんだよ!!!」
「俺じゃねーよドラックスがやったんだ!」
「テメーの船だろテメーで何とかしろ!!!」
「都合のいい時だけ俺の船ってことにすんな!」
ミラノ号への帰り道、「銃を壊した罰」として、軽くはない荷物と、思ったより軽いロケットを担ぎ上げ、ピーターは歩みを進める。口論のたびにロケットの鋭い蹴りが胸元にめり込み、ダメージが大きいはずだがその足取りは軽かった。
深夜も遠く行き過ぎて、草むらの朝露がブーツを濡らす。
「何でアイツのとこに居るって分かったんだ?」
「ガモーラに通信があった」
ふっ、と鼻で笑ってしまう。
まるで迷子の子供とその親のようだとロケットは思う。差し詰めコレクターは少々悪趣味な保護センターといったところか。
だが居心地は悪くなかった。息抜きと称してアイツの船へ顔を出すのも悪くはないかもしれない。グルートを連れて行ってみようか。小さくなった姿に、どんな殺し文句を囁くのだろうか。
勝手に想像を巡らせ黙り込んだロケットを見やり、ピーターは不貞腐れたように呟いた。
「………何も変なことされなかったのか」
「変なことって?…わっ」
問い返すロケットを、差し向かうように抱き寄せ直す。ロケットの頬に手を添え、指で目元を撫でた。赤子をあやすようにゆっくりと、ピーターは剥き出しの牙に口づけを落とす。
「………こういう?」
触れられてる頬が燃えるように熱い。今更キスの一つで何故こうも高揚するのか。ロケットの思いも他所に、ピーターは恥ずかしげも無く瞳を覗き込む。
「…こんな事すんのテメーだけだろ……」
俯くロケットの額へ、ピーターは二度目の口づけを落とす。
朝露で濡れ光る毛並みを、一層愛しく思いながら。