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pikari

胞子の舞踏(オールキャラ・スタロケ・グルロケ)

 

 

【エゴを倒して、結構時間が経っているという前提でのスターロード視点、グルロケ+スタロケです。
私のpixivの作品である 「樹木の観察」 で書いたことが多少下敷きになっていますがこれ単品でも読めると思います。ラヴェジャーズの船の中のことはかなり捏造してますので見逃していただけると嬉しいです。】


 ラヴェジャーズの船の居住区にある少し大きなテーブルに一人、いや、一匹を除いた全員が揃っているのを確認して俺は机を叩く。

「それじゃあ会議を始めよう」
「ロケットが居ないわ」

俺が告げると同時にマンティスが横やりを入れる。が、それは承知の上だ。

「それで良いんだ。今日の議題はそれだし」
「アイアムグルート?(どういうこと?)」

グルートが俺に聞き返す。ベビーの時から接していたからか最近になって少しグルートのいう言葉が理解でき始めてきた。完璧ではないが、会話がなんとかできるようになったので嬉しい。耳ではアイアムグルートとしか聴こえないが、脳が勝手に翻訳する感じでロケットはこんな風にグルートと会話していたのだと思うと感慨深い。時々間違っていてロケットから訂正を貰うこともあるが、今はいい。
 今日の議題、それはロケットの態度が相手によって全然違うのではないかということであり、本人のいるところでは話せるとは思えないのでロケットは買い出しに出させている。

「どういうことだ、スターロード」
「いや、ロケットの相談をしようと思って集まって貰ったってわけ」

グルートとドラックスが俺に訊いてきたのでそれに答える。するとクラグリンが俺に怪訝な顔を向ける。

「おいおい、陰口の為に集まったのか」
「クラグリン、それは違うぞ。陰口じゃない、単に相談だ! 日々過ごしていて思うんだがロケットの奴、相手によって対応が全然違うからその傾向と対策を練ろうと思いたい」
「それはつまり自分に塩対応なのが悔しいってこと?」
「違……わなくはない」

ガモーラの言葉が俺に少しダメージを与える。ロケットは明らかに俺に冷たいというか口を開けば罵詈雑言だ。その理由を知りたいが本人は絶対に教えてくれないだろうから皆の力を借りたい。

「というわけで、一人一人ロケットにどんな対応されてるか意見を聴きたいから新しく入った順にクラグリンから頼む」
「そうだな……俺は矢を直してもらったし話もよくするが普通に良い奴だと思うぞ。少々口は悪いがヨンドゥも似たようなものだったしな」

もう俺より仲が良いのではと思わされるクラグリンの報告になんとも言えない気分になる。ラヴェジャーズでのあれこれで何か有ったのだと思うが、二人とも話したがらないため俺には分からない。

「入ったばかりのクラグリンにはまともな対応なのに俺そんな嫌われることしたっけな」
「……まあ、お前には色々あるようだったぞ」
「その理由を教えろよ!」
「本人に訊け。俺の口からは言えん」

つまり俺がどうなろうとロケット次第ということなのか。この会議の主旨が一人目にして否定されてしまったが、集めた以上続けなければ。本命のグルートも残っているし。

「よく分からないが、次マンティス頼む」
「私が可愛いって言って撫でようとしたら毎回拒否して逃げてしまうわ。話は普通にしてくれるから前に一度読み取ってしまったのがよほど嫌だったみたい」
「そうか……」

マンティスは読み取ったことをそのまま口に出してしまうため触られると非常に気まずい事態になりやすい。俺もこの前ガモーラと居るとき……いや、思い出さないようにしよう。ロケットもかなり胸に色々溜めるタイプなのでマンティスに触られるのは避けているのだろう。しかしグルートを育てている途中にマンティスとはそこそこ仲良くなっていたのを知っている。触ろうとしなければ結構優しめな対応の筈だ。

「よし、次ドラックス頼む」
「俺か。最近よく褒められるな。脳まで筋肉で出来てるとかお前がいると工具要らないとか。それ以外は昔通りだ」

後半はともかく前半はただの皮肉だろ……。そういえば前にロケットがネジ閉めてほしいとドラックスに頼んだとき、あまりの力にネジ穴ごと機械が粉砕してロケットが放心状態になっていたな。でも何だかんだでドラックスと連れ添って何処かに飲みに行っているのを見るのでやはり仲は悪くない筈だ。

「次、ガモーラで」
「私は特に絡むことが無いから特に無いわ」
「いや、ガモーラはある意味ロケットが唯一ちょっかい出さないという意味では特別なんだ」

ロケットは暇が出来ると誰かにちょっかいを掛ける悪癖があるのだが、ガモーラにちょっかいを出しているのを見たことがない。初めて会った時にガモーラに投げ飛ばされたり噛み付かれたりしたのが理由だろうと思っている。ガモーラはちょっかいを掛けられたら容赦なく制裁を行うタイプだと俺も思う。

「……そうなの?」
「ああ。ロケットと会話してるときいつもどんな話をしてるんだ?」
「大体これからの目的の話よ」
「ロケットはガモーラとだとふざけないってことか」

ロケットも真面目な話はガモーラにしているのだろう。いつの間にかリーダーを差し置いて次の目的地が決まっていることもあるので不思議に思っていたが、二人で話してたのか。……マジで俺、一番ロケットに嫌われてないか?

「あー、最後グルート頼む」
「アイアムグルート(ようやくだー)」

もうグルートなんて本命であるが故に聴くまでもない。赤ちゃんに近い状態の時のグルートに対する世話の良さや気遣いは他の仲間の比ではない。二人が愛し合ってますなんて言っても驚かない程だ。

「アイアムグルート、アイアムグルート(ボクのことよく見ててくれるし、一緒に居てくれるし、撫でるとふわふわだよ)」
「おい、クイル。木のボウヤは何て言ってるんだ」
「ただの惚気だから聴く必要無かった」

クラグリンが何を言っているのか聴いてきたが惚気のようなものだ。通常時にロケットにキレられずに撫でられる奴なんてグルート以外に居ないわけだし。

「アイアムグルート(あとねー、ベッド改造してくれたり、一緒に寝て……)」
「グルート、もういい。ありがとう」

このまま言わせてもなんの参考にもならないので止める。というかまだ一緒に寝てるのか。

「で、クイル、お前はどんな対応されてるんだ」

ドラックスが俺にそう問う。確かに訊いたわけなのでオレも答えるべきだろう。

「仕事頼む毎に暴言吐かれたり、日々話しかけただけで嫌な顔されるんだよ。この前なんかは挨拶しただけで舌打ちされた」
「そんな酷かったのか」
「おかしいだろ!? 皆にはそんなことないのに俺だけそんな感じだから参るよ」

チームの仲間とは仲良くしたいと思っている、何かあって嫌われるなら仕方ないが、ロケットに対してそんな嫌われるようなことをした記憶もない。

「クラグリン、なにか知ってるんだろ?」
「知ってるのは知ってるが……おい、木のボウヤ、前に青い肌のおじさんとロケットがワープの後にしてた話をしてもいいと思うか」
「アイアム、……アイアムグルート(あれは……うーん、ダメだと思う)」
「グルートも知ってるのか。教えてくれよ。このまま理由も分からずあの対応されるのは辛い」
「アイアムグルート(うーん、嫌ってるからそういう対応してる訳じゃないないのは確かだよ)」

意味が分からない。嫌ってないのに塩対応する理由がどこにあるのか。……つまり所謂ツンデレ? いや、デレ見たことないからただのツンツンでしかないな。

「木のボウヤはダメって言ってるのか」
「ああ。嫌ってるからじゃないとは言ってるがそれなら他の奴らと大差ない対応になるはずだろ?」
「分からないなら話してくれるまで待ってたらどうだ?」
「そうするしかないか……よし、それじゃ解散で」

結局具体的な案は出なかったが何やら原因があって俺が嫌われているわけではないということは分かっただけでも収穫だ。話してくれるきっかけを作れるよう気を配っていよう。そう心に決めてこれから過ごすことに決めた。

 

「まだねっむ……でも俺操縦当番だっけな」

  そう決めて数日経った日のこと、目を覚ました俺は船の操縦室に向かう。一応自動である程度運転してくれるとはいえ、緊急時や今どのあたりに居るか知るために船の皆で交代して見ており、今日は俺の当番だったので操縦室に行かなければならない。
 操縦室の途中にある居住区に着くとモゾモゾと茶色の毛玉が動いていたので目を擦ってよく見るとそれはロケットだと気付く。俺の記憶では昨日からずっとそこで機械を弄っていた。前にも同じようなことが有ったがロケットは徹夜によりかなり気が荒くなるようで下手に声を掛けると地獄を見る。更に標的が俺ならどうなるか分かったものではない。なので、気を使いながら話し掛ける。無視するとそれはそれで怖いしきっかけは大事だ。

「ロ、ロケット、それ、いつからやってるんだ」
「おとついからだっけな。なんかもう面白えからずっと続けんだよ」

俺が声をかけるとそんなことを言ってぎゃははと笑いながら手元を動かしていた。どうやら荒れてはないようだし、俺相手でも舌打ちしていないので機嫌は良いのだろうか。しかし様子が完全におかしく目の焦点が怪しい。そんなロケットの覚束無い手で閉めようとしたネジが吹っ飛び、カランと音を立てて落ちる。

「おい、見ろよクイル! カランってネジがふっとんだぜ! こりゃあケッサクだ!」
「いや、全然面白くないから」

落ちたネジを指差しながら爆笑し続けるロケットを疑問に思うのを通り越して恐怖を覚える。まるで危ない薬決めてるのかと思ってしまうが何が起きたんだ。一緒に居たはずのグルートは見ていなかったのか?

「グルート、いるかー?」
「アイアム、グルート?(んー、なあに)」

ロケットが作っている機械の向こう側の床で眠っていたようで俺が呼ぶと身を起こした。

「なんでこんなことになってるんだ? というかその時にロケットを止めなかったのか?」
「アイアム、……アイアムグルート(なんか、寝る前に眠気覚ましっぽい胞子とか出せないか訊かれたからやってみたらこんな感じに……)」
「グルートのせいか!」
「アイアムグルート!(だって、頼まれたから!)」

眠気覚ましがどうとかとしか分からなかったが、整理するとグルート印の危ない薬を決めていたようだ。手元も危なかっしいし早い時点で止めろよ!

「ロケット、もうやめろ、ちゃんと寝ろ。マジで手元がヤバイ」
「ぜーん、ぜん眠くねえぞ。ほら、なあ、グルート」
「今話しかけてるのはグルートじゃなく作ってる機械だぞ。本当にやばいぞ」
「アイアムグルート(どうしようか)」

このまま作業させていても寝るとは思えないし、かといってなにすれば寝るのかも分からない。いつもの対応より優しいのでこれはこれで助かるのだが正気じゃない状態でそうでも嬉しくない。体を動かす方向性で攻めるべきだろうか。
 とりあえず思いつきで近くの装置を操作し激しい音楽を掛けてみる。するとロケットの手がリズムを取り始めた。

「なんかノれるなこの音楽」
「じゃあ踊ればいいんじゃないか」
「一人で踊れるかよ、お前らも踊れ」

めんどくさいな……、まあロケットが乗ってきたらそのまま踊らせて俺は止めればいいか。そう決まればグルートも巻き込むとしよう。寝起きで一人で踊り始めるのは嫌だ。

「グルート、踊るぞ」
「アイアムグルート!(オッケー!)」

俺とグルートが踊り始めるとロケットも機械を置いて踊り始めた。いつもなら体でリズムを取るくらいなのに、グルート印の胞子は強力なようだ。しかもいつものちょっと恥じらいが抜けきれていない物ではなく全力と表現できそうなもので中々可愛らしい。

「おい、クイル、グルート、お前らそんなもんか?」
「んなわけないだろ。グルート、もっと激しく行くぞ」
「アイアムグルート!(了解!)」

煽られたので俺も大きく踊り始める。グルートもロケットと手を繋いで踊り出していた。なんで起きてすぐにこんなことを……と思わなくもなかったが、ロケットが寝るまでの辛抱だ。そう思いながら踊っていると、顔に何かが粉っぽい物が降りかかった。普通にそれを吸い込んでしまってから上を向くとその粉はグルートから出ているのが見えた。もしかして……と思ったときには体が何か充足感に包まれ、意識がぼんやりする、何故だか、ロケットに勝負を仕掛けたくなってきた。

「おい、ロケット。ダンスバトルだ」
「ほー、後悔すんなよ」
「このステップ真似できるか?」
「へー、やるじゃねえか。でも、体全体の動きじゃ負けねえぞ。離せグルート、クイルの奴に見せ付けてやる」
「アイアムグルート(二人とも頑張ってー)」

やたらノリノリに動く体とは裏腹に俺の意識は薄れていった――。

 

 そして次に気が付くと仮眠室の簡易ベッドの上だった。さっきまでのは夢――? と思い、起き上がろうとすると体が痛い。特に足が。しかも隣のベッドにはロケットが爆睡していた。一体何があったのか。周りを見渡すとガモーラが居た。何か知っているだろうか。

「ガモーラ、丁度いい所に。一体何が有ったかわかる?」
「五時間踊ってたわ」
「は?」
「五時間位、ずっと踊り通しだったって言ってる。今はそれから三時間程経ってるわ」

グルートの胞子が降ってきた辺りから記憶がなかったが、まさかそんなことになっていたとは。

「ロケットも同じ時まで踊ってたのか?」
「二人とも最後は老人みたいにフラフラしてて殆ど同時に倒れてた」

徹夜をしていたロケットと同時とはなんとも情けないが、ロケットも俺が居なかったら多分もっと早く倒れていただろう。

「それでグルートは?」
「ずっと踊ったまま。今はマンティスとダンスバトルしてる」
「ええ……」

つまり8時間ほど踊ってるということか。ベビーの時もめちゃくちゃ元気があって遊ぶのに一苦労だったが、今もそれは変わっていないらしい。というかグルートは最初の反抗期を過ぎて再び遊び盛りになっているのかもしれない。彼の胞子はそんなノリが溢れて出来た物だったりするのだろうか。……とりあえず説教するべきだろうか。しかし足が本当に痛くて行って叱る気になれない。

「これ絶対二日後にでも筋肉痛も来るやつだ」
「ご愁傷さま」
「なんで止めてくれなかったんだ」
「私を踊りに誘うときはあんな激しい曲は掛けないから、見たくなったのよ」

絶対嘘だ。彼女の顔は多少意地悪そうな表情だったのでその理由だけではないように感じる。もしかしてのもしかしてだけど。

「誘って欲しかっ「そんな筈無いでしょ」

0.5秒で切り返されてしまった。けれど、逆にその反応が説得力を持たせる。もっと突付きたいが下手したら下半身にエルボーが落ちてくるかもしれないのでやめておこう。

「まあそれは置いておくとして、グルートの奴を注意しておかないと。今のグルートは胞子を出しててそれを吸うとワケわからない感じになるんだ。あの胞子は下手したら事故に繋がる」
「ダークアスターの時は何ともなかったけど」
「グルートの調整次第なんじゃないか。今回はロケットが眠気覚ませそうな奴って言ってたしあのときみたいに光った奴じゃ無かった」

ロナンの戦艦に乗り込んだあの時に出していた胞子は光っていたし一つ一つがデカかったので吸い込もうとも思わなかったのもある。

「で、ガモーラ。グルート連れてきてくれないか」
「自分で行けば?」
「足が痛くて歩けないんだ」
「……」

とても大きな溜め息をつかれた後に、ガモーラが歩いて行った。五時間ステップを踏んだ足がまともに動くだろうか? いや、動かない。隣の簡易ベッドに寝かされていたロケットは俺たちの会話に起きることもなく丸まって眠り続けていたのでそっとしてやろうと思い、静かに待っていた。
 そしてガモーラがグルートを連れて来るのを待っていたが、待てど暮らせどガモーラは戻ってくることがなかった。なんか、嫌な予感がする。そしてもう少しするとドラックスの怒号染みた掛け声まで居住区から聞こえてきた。
 ……よし、寝よう。あの場に行ったら再び胞子を嗅がされかねない。そしてただでさえ痛む足が更に破壊されてしまうのだろう。彼らが倒れたら行くことにしよう、そう決めて俺は目を再び閉じた。

 

「おい、起きろボケ」

再び意識を飛ばしていると隣から呼び掛けられて意識が浮上する。目を開けると隣のベッドのロケットが目を覚ましていた。やはり体にダメージがあるようでロケットも横たわったままだった。

「んん……? ロケット、起きたのか」
「何があったのか全く覚えてねえけど体の節々が痛え。なんか眠気があったからなんか出来ねえかグルートに聴いてから記憶が飛んで、気が付いたら仮眠室だ。一体何があった?」
「ロケットがグルートにそう言ったからなんかグルートが胞子を出し始めてロケットに嗅がせたらしい。それを吸い込むとハイテンションになるみたいでロケットはそのせいで完全にラリってた。それをどうにかしようとした俺も嗅ぐはめになって他の皆も多分吸う事態になってる」
「……なんつうか、詰めて売れば需要出そうだな」
「流石に密売集団になるわけにはいかないぞ。というわけで、グルートに出さないように言おうと思ったんだが、下手に近付くと嗅がされて再びダンスバトルに直行だ。グルートを連れてくるように頼んだガモーラが戻ってこない」

身体能力が高いメンバーでも普段使わないような場所を急に動かすからきっと筋肉痛が襲ってくることになるだろう。

「今、どうなってんだ」
「さあ、行ってみないと分からない。音楽が鳴りやんでないからグルートはまだ踊ってるかもしれない。でも、下手に行ってまた吸いでもしたら俺の足はもう崩壊する」
「そうかよ。……クイル、お前は自前のマスク被っていけ。オレもガスマスク付けて行く。ああクソ、体痛え動きたくねえ。やっぱお前だけ行ってこい」

ベッドから降りて足の調子を確かめたロケットが苦い顔をしたあと俺一人で行くように言うがお断りだ。

「俺だって同じだ!  でも動かなきゃやばいし元はと言えばそっちのせいだろ!」

このままグルートがあれを撒き散らし続けたらいつもハイテンションの完全に頭がおかしい集団かずっとガスマスクを装備した視覚的に危ない集団のどちらかになってしまう。どっちにしてもどの惑星でも入港させてくれないだろう。痛む足を奮い立たせベッドから降りる。

「ロケット、グルートにもう出さないように言え。俺は倒れてる奴とか居たら救護する」
「ドラックスとガモーラなんかは体力的にずっと踊れそうだけどな」
「その二人はどんなダンスしてるかも分からないから本当に怖い。そもそもダンスしてるかも謎だけど。ドラックスとかにマスク剥ぎ取られないようにしろよ」
「分かってる。どうなってるか分からないから降りるときから気を抜くなよ」

俺はいつものマスクを付け、ロケットは船に備え付けの防護メットを付け、部屋から出て階段を降りて居住区に向かう。
居住区の扉を開けるとその瞬間胞子が飛び出してきた。どんだけ撒き散らしてるんだ!?

「これは不味いな。換気のために一回真空にした方が楽なんじゃないか」
「お前、こんな内側の部屋の真空作業行うのにどれくらい手間が掛かるか分かってんのかよ。オレが本気だしても一日仕事だぞ。もう徹夜はごめんだ」
「ふわふわ浮いてて消えないんだぞ」
「そういうのは後で考える。今は元栓を閉じるとこからだ」

意を決して部屋のなかに入ると部屋では音楽がまだ鳴っており、グルートを中心にガモーラとドラックスが踊っていた。……しかも武器を持って。なにあれ、剣の舞ってやつ?

「よし、止めとこう。あれは下手したら死ぬ奴だ」
「周りで倒れてるクラグリンとマンティスを助けてやれよ。自分で言ってただろうが」
「いや、武器を振り回してはないにしても近くに寄れるか!」

そう、二人は持っているだけで振り回してはいない。しかし俺が近づいたらどうなるか分からない。それならば現状維持させておきたいと思ってはいけないだろうか。

「信じろ、家族なんだろ」
「いや、普段俺が言ったら笑うくせにそんな都合良いときだけ家族持ち出すなよ!」
「なんだ、やっぱ口先だけだったってことか」
「……は? そんな筈無いだろ」
「じゃあ行けよ」

ここで下がったらまるで否定するようになってしまう。ああくそ、乗せられた! しょうがない、 行こう。

「よし、行く」
「オレはその後ろから行くからあの二人引き付けろよ」

やっぱり盾にする気か。しかし、どちらか一方がその役目を負わなければならない。とりあえず突進し、マンティスの体を掴む。しかし、ドラックスの目が俺に向いてしまった。さあ、どんな反応をするだろうか。基本的にはスルーが安定だろう。

「おい、アスカヴァリアの女と寝たスターロード!」
「称号みたく言うのやめろ!」

俺を見つけたドラックスが呼び掛けてくるが、中々に嫌な呼び名だったので思わず返答してしまった。斬りかかってきたりしないのは良かったけれどまさかの精神攻撃とは。

「俺とダンスバトルしろ!」
「いや、勘弁してくれ……」
「アスカヴァリアの女と寝たくせにか?」
「だから、そのフレーズ繰り返すのやめろ!しかもダンス関係ないだろ!」

襲い掛かっては来ないが、違う意味でダメージを与えてくるのは止めて欲しい。そこにガモーラも参加し始める。

「クイル、あなたああいうのが好みなの?」
「好奇心が疼いたんだよ。ただ一度の過ちをそんな拾い上げないでくれ!」

二人掛かりで苛められているこの状況は本当に辛い。あの牢獄の時言うんじゃなかった。マンティスを運びながらロケットをチラリと見るとグルートの肩に乗り叫んでいた。

「おい、止めろグルート! それ以上その胞子を出すな!」
「アイアムグルート?(皆楽しそうだよ?)」
「いいから止めろ! 楽しんでるんじゃなく楽しまされてるんだ。止めねえともうお前と口聞かねえからな!」
「アイアムグルート!(それはいやー!)」

向こうは片付きそうだ。その間にマンティスを部屋の外まで運んだのでクラグリンも運び始める。一体クラグリンはどのタイミングで参加していたんだ? 

「おい、ロケット。ガモーラとドラックスはどうするんだ!」
「放っとく。時間経過位でしか治る見込みねえし」

確かに。供給元となるグルートは抑えたわけだしいつかは消えるだろう。音楽を止めるとガモーラとドラックスも踊りを止めた。しかし、この二人のことなのでまだ、動き足りないだろう。といっても音楽を掛ければ踊りだす位だ、ちょっと煽れば行動を誘導できる。

「ところで二人はどちらが足が速いんだっけ」
「私ね」「俺だ」

二人同時に宣言した時点で勝利を確信する。さて、後は二人にその辺りを走り回らせれば――。

「おい、どこでこいつら走らせんだよ」
「あっ」

切り離し前の大きな船の中ならともかく現在の船ではそんなスペースは無い。下手に走られて何処かにぶつかられたり破壊されたら……。

「この船の二層部分で勝負しましょう」
「何処だろうが俺の方が速い」
「おいお前ら、二層部分には船の根幹となる機器があるんだぞ! 誰が直すと思ってんだ!」
「走るだけなんだから関係無いでしょ」

ロケットが焦ったように言うがガモーラは何の関係があるのかといった風に返す。ロケットも壊れる前提の物言いなのがこの二人の危険さを物語る。そしてロケットが更に言葉を足そうとした時にドラックスが駆け出す。

「着くまでも勝負の内だ!」
「上等よ」

そして二人は物凄いスピードで走り去ってしまった。しかも何故か向こうから金属音が響く。ロケットがこれからの修理を想像したのか頭を抱える。

「クイル、てめえもっと平和な提案しろ!」
「二人が競いあえて危険が無さそうなのがこれだったんだ! というかこれはグルートの胞子のせいであってその胞子を出すきっかけはロケットにあるからな!」
「だから抑えようとしただろうが!」
「アイアムグルート?(眠らせてもらえば?)」

グルートが唐突にそう言ったので見渡すとマンティスが意識を取り戻しており、メットをかぶりこちらに来ていた。ガモーラとドラックスは長時間踊ったあとだ、確かに眠るかもしれない。

「マンティス、体は動かせるか」
「可能だけど体が凄くあちこち痛い。一体何が?」
「分かってるけど、話すと長い。今はガモーラとドラックスを眠らせるために力を借りたい。ロケットは罠かなにかで二人の足を止めてくれ」
「お前、結構手段選ばないよな」

ロケットがちょっと引いた目で此方を見るが手段は選んでいられない。ミッションスタートだ。

「俺はやばいところの隔壁下ろしてくる。それからならちょっと派手な罠使っても良いぞ」
「なら話は早い。グルート、お前は止められなくても良いが気を引け。その時に俺の罠で動きを少し止める」
「そして最後にマンティスが二人を眠らせるわけだ。何だかんだ踊り通しだし寝るだろう」

作戦も示し合わせたので各自行動し始める。俺は管理室に走り、他の三人と別れる。管理室に入り、モニターを見るとガモーラとドラックスが物凄い勢いで走っていた。あの勢いの彼らにぶつかられたらグルート以外死にそうだ。変に刺激しないように二人が走る反対側の隔壁から下ろし、二人が移動するのに半周遅れになるように次々閉める。これでいきなりロケットが電気系のトラップを使っても大丈夫なはずだ。

 そして閉まり終わった辺りでロケットがワイヤー……ではなく、ゴムバンドを通路の下側に素早く張り巡らせる。一応二人を怪我させないように考えてのものかと思いきや、そのワイヤーの上側に何か仕掛けたのが見え、通路に引っ込んだ。
 彼らが一周するのは一分無いほどなので俺がちゃんと見る間もなく二人がやって来た。足元にゴムバンドがあるのは視認できたようで二人とも飛び越えようと飛ぶ。その瞬間フラッシュバンの光が炸裂し、モニターが真っ白になった。そして、その光が消えたときには、ガモーラとドラックスはグルートの枝に絡めとられながら眠っていた。何が起きたのかよく分からないが二人のことは解決したようでカメラに向けてグルートとマンティスがジェスチャーで完了と伝えてきた。

「なんとか一件落着か」

あとは居住区の胞子か。少しの間はあの部屋に入るときはマスクが必要だ。少しでも残ってて吸われると大変なことになる。モニターを見ているとグルートが二人を仮眠室に運んでいたので俺もそこに移動することにした。

 仮眠室に行く途中、ゴムバンドを片付けているロケットが通路に居た。何が起きたか気になるし訊いておこう。

「お疲れ、どういう作戦だったんだ?」
「足元にゴムバンド目立つように置いて跳ばせて、フラッシュバンの光でグルートの枝が絡み付くのを見えなくさせてから縛ってその間にマンティスが眠らせた。あとグルートは光が当たるとその分早く腕を伸ばせるからフラッシュバンを使った」
「そういうことか。そこそこの騒動だったな。今も体痛いし」

危険度はあまり無かったが疲れる騒動だった。ある意味仲間の肉体の強さを再確認したとも言えるが。

「……悪かったな」

えっ、ロケットが謝った!? 解決したから絶対謝らないと思ったのに。

「なんだその顔」
「いや、絶対言わないと思ったから」
「オレが責任認めなかったらグルートのせいになるだろ」
「ああ、そういうこと」

ロケットはグルートに対してはクラグリンやドラックスに比べ十割増し、いや、二十割増し位で甘い。特別グルートに甘いことだけは分かる。……でも今は俺にも結構普通に接してくれてるな。一応反省の気持ちがあるのだろうか。

「で、居住区の胞子はどうする?」
「……真空にしねえといけねえのか?」

ロケットが物凄く嫌な顔をする。確かにあの部屋を真空にするのは凄まじく面倒だろう。けれどあのままでは困る。

「胞子だけを消す方法があれば良いんだが」
「分析しようにもそういう設備がねえしな」
「というか俺たちの中にそういった物に詳しいやつ居ないだろ」
「そこに関してもオレは叩き込まれてるから問題ねえぞ」
「えっ、マジ?」

機械も得意だしロケットの知識量には目を見張るものがあるがまさかその方面に関しても詳しいとは。……けれどロケットは日頃修理や装置の改善等で忙しいので今後設備が出来てもその方面もやってとは流石に頼めない。そもそもグルートの意見を聴いてなかったな。

「というかまず出したグルートに訊こう。なんか分かるかもしれない」

そう決めて二人して仮眠室に行く途中足を引きずっているクラグリンが居た。意識すると俺の足も痛いのを思い出してきた。

「やめろそれ。見てるだけで俺の足の痛みがぶり返すだろ」
「うるせえ若者。こちとらもうダンスって歳じゃない。数時間も踊らされて限界なんだ」
「原因はオレなんだ。悪かった、クラグリン」
「そうだったのか。まあでも足が痛いくらい大したことない。それより謝られると思わなくてビックリしてる」

またもや素直に謝ったロケットにクラグリンが驚いていた。正直俺も一人一人に謝ると思って無かったため再び驚いている。

「なんだよ、謝っちゃ悪いってのかよ」
「勿論良いことだが、意外だから驚いたんだ」
「あのなあ、オレだって……」
「オレだって?」
「……何でもねえよ」

なにか言おうとしたロケットが言葉を切ってしまったので追及するが、そっぽを向いてしまった。そのまま自分の部屋に向かったクラグリンは放っておいて俺たちは仮眠室に向かった。

 そこではドラックスとガモーラが先程の俺たちのように眠っていた。多分数時間は起きないだろう。それをグルートとマンティスが見ていた。

「お疲れ、マンティス。それにグルートも」
「アイアムグルート(元はと言えばボクのせいだし……)」
「違う、オレのせいだ」

二人に労いの言葉をかけるとグルートがそう言い、それにロケットが被せる。グルートに対して甘すぎないか? ロケットは眠気を覚ませないかをグルートに頼んだが流石にああなるとは思って無かっただろうから原因ではあるが責任をあるかというと微妙だ。

「二人ともが自分のせいって言ってるけど」
「今回は色々な要因が重なってるから誰のせいとか言えない。ガモーラは効力分かってて行ったからなんとか出来た筈だけど吸ったわけだし……俺だって油断してた」

もうグルートも同じことは起こさないだろうから無駄に責任を追及する必要は無いと思う。……俺もグルートに甘いな。そう思っているとロケットがこっちを向いた。

「クイル、後で話があるからオレの部屋に来てくれ」
「ん? ああ、分かった」

ロケットが少し真面目な顔でそう言い部屋を出ようとしたのですぐさま承諾する。話をしたいだなんてロケットが言うのは珍しい。

「二人は私が見ておくから行けばいいと思うわ」
「そうしたいけどその前に……。グルート、一度出した胞子を消す方法とか無いのか?」
「アイアムグルート?(消す方法は分からないけど、昨日出してって頼まれた分は勝手に消えてたよ。初めて居住区に来たとき舞ってなかったよね?)」
「なんだ、勝手に消えるのか。確かに。なら、数時間くらい立ち入り禁止にしてれば問題ないな。マンティスは二人が起きたらそう伝えておいてくれ。俺はロケットのところ行ってくる」

特に放置しても問題無さそうなのでロケットの用事を優先しようと決め、俺は部屋から出た。


 そしてロケットの部屋に向かい、部屋の前に立つ。呼ばれたなんていつぶりだろうか。ミラノ号ではエンジンルームの隣がロケットの部屋であり、調整もロケットが一任していた為偶然通ることも無かった。このラヴェジャーズの船ではロケットはグルートと部屋を共有しているのでグルートの子守りついでではよく来たが……。
 意を決して部屋の扉を開けるとロケットがベッドに座って待っていた。

「ちゃんと来たか」
「部屋にお呼ばれしたら行くのが礼儀だろ」
「ああ、それでアスカヴァリアの女とも」
「そうそう、誘われたら行くのが俺……、って本題はそれじゃなくて他にあるんだろ?」

俺が最初に脱線させてしまったのだが分が悪い話になったので本筋に戻す。なんで皆そのことをわざわざ掘り返してくるんだ。

「取り合えず座れよ」

するとロケットが椅子を指差して座るように言ってきた。そこそこ長い話をしようと言うことだろう。その言葉に俺は従い笑みを見せながら座る。これまでまともに話せなかったのに向こうから話そうと言ってくれるのは嬉しい。

「それで、何を話してくれるんだ?」
「お前に対してかなり険悪な対応してたの、その、悪かった」

最後は顔を背けながら言いにくそうにロケットがそう呟いた。本人も後悔の念があったと知ることが出来ただけでも良かった。しかし、ここは返答を考えよう。

「結構気にしてた。だから理由を教えてくれないとな」
「理由か。……一言で言えばお前との接し方が分からなかった」
「いやいや、普通に仲間になったときと同じで良いだろ。なんで出会ってすぐより酷い接し方になるんだよ」
「きっかけは、ヨンドゥに言われた言葉だ。オレが故意にお前に嫌われようとしてるって指摘された」
「ヨンドゥが?」

エゴの事件の最中、ヨンドゥとロケットはお互いの考えていることが分かっているかのような連携や行動をしていた。その理由はその時の会話に有ったのかもしれない。

「オレは、オレ達を家族だって言うお前のことが怖かった。お前がそんなことを言わないように嫌われたかった。だからわざとトラブルを招いたし、酷いことも言った」
「それは、気付いてやれなかった。なんでヨンドゥは気付いたんだ?」
「ヨンドゥは俺はお前だからだって答えた。オレがクイルにやってたこととヨンドゥがクイルにやってたことは同じだと」
「……あのクソ親父」

あれを愛と言うにはあまりにも不器用が過ぎるだろうと今までされた仕打ちを思い返す。確かに、目の前の彼も器用な手先とは反比例するが如く心が不器用だ。

「なんで、家族が怖いんだ?」

先程のロケットの言葉で気になった部分があったので訊く。今を逃すとロケットはもう話してくれない気がした。

「お前がロナンと戦う前に言ったようにオレはこれまで敗者で、色々な物を失ってきた。だから、大切なものを守るなんてことは出来やしないって分かってた」

ロケットはオレよりもキツい経験をこれまでに沢山してきたのだろうと思う。やけにドライな考えなのはその裏返しか。

「オレは、失ってもいいように大切なものを作らないようにしてきた。でも、ロナンとのことでグルートがいつの間にかに大切なものになってたって気付いた。……守れもしないのに大切なものだけが増えていくのが怖かった」
「そういうことか」

大切なものを増やしたくないロケットは家族なんて分かりやすく大切なもので呼ばれることが嫌だったようだ。家族だと認識してしまえば確実に大切なものになってしまう。

「ロケット。確かに大切なものを守るのは難しい。でも、守ろうとしてるのはロケット一人じゃない。家族だから互いに守り合うんだ。勿論、俺はロケットを守りたいと思ってる」
「……そりゃどうも」
「照れるなよ」
「照れてねえ!」

ロケットがムキになってそう言うのでどうどうと抑える。俺たちと仲が深まっていくのが怖くてあんな態度だったなんて、からかいがいがある。ヨンドゥにもこうやって言ったらどんな反応をしただろうか。……そういえば、それなら別に俺だけにあんな対応する必要はあったのだろうか。家族的なことを言い出したのは俺だが皆言ってた訳だし。

「何となく分かったけど、なんで俺だけ当たりが特に強かったんだ? 別に他の仲間も家族的なこと言ってただろ」
「それは……」
「それは?」

ロケットは言うかどうか迷っているような表情をしていたが、急に飄々とした表情になった。

「リーダーのお前がオレを嫌いになって突き放せば他の奴は省略出来て効率的だからだ」
「確かに効率的だな」
「そうだろ」

確かに筋は通っている。ロケットは話したいことは終わったようでベッドに寝転んだ。

「これからは普通通りにすっから、そういうわけでよろしく」
「あー、最後に一つだけ。なんでこの事を話してくれたんだ?」

今まで言わなかったのに、今になって口を開く気になった理由が知りたかった。ロケットは寝転んで後ろを向いたので話してくれる気は無いのだと思って俺は部屋から出ようと立ち上がった。

「さっき、誰のせいでも無いってオレ達のこと庇っただろ」
「グルートが反省してるなら責める必要は無かったからな。ロケットだってああなると思ってなかっただろうし」
「……結構、嬉しかった」
「えっ、」

ロケットの言葉に思わず声が出た。ロケットがこんなことを言うなんて幻聴を疑ってしまう。

「オレはもう寝る」
「……分かった、おやすみ」

追及するより前に出ていけと言外に言われたので従う。さっきの一言が心を開いてくれる要因だったのか。あんまり優しくされたこととか無いんだろうか? あの見た目だし苦労することも沢山有っただろう。
 部屋から出るとグルートが立っていた。わざわざ待っていたようで本当に愛されていると思う。

「アイアムグルート?(お話終わった?)」
「ああ、終わったよ」
「アイアムグルート?(どんなお話してたの?)」
「ヨンドゥとした話のことと、なんで俺に冷たかったのか話してくれたよ。まさか俺に対してああ思ってたなんてな」

確かにこれは人伝てで言うのは憚られるだろう。グルートやクラグリンが渋っていた理由が分かった。

「アイアムグルート?(えっ、それでどうしたの?)」
「ん? まあ納得したさ。ロケットだっていろいろあっただろうし俺も支えてやらないとな。なんでそんな意外そうな表情なんだ」

グルートが信じられないと言いたそうな顔をしたのでそう訊いてみる。

「アイアムグルート?(だって、確認するけど告白されたんだよね?)」
「えっ?」

告白……? 確かに隠していたことを打ち明けるのだから告白という言葉が正しいか。

「そうなるな」
「アイアムグルート?(それで、了解したの?)」
「そうだ」

折角もうあんな態度は取らないと言われたのだからあれこれ言う必要はないと思って了解したがわざわざ確認するなんてグルートは本当にロケットのことが好きなんだなと思う。

「アイアムグルート!(そんな!)」
「どうしたんだグルート」
「アイアムグルート(でもボク、諦めないよ!)」

グルートが驚いた後、俺に諦めないと言う。何に関してか分からないしそれを俺に言う理由も分からない。

「なんの話だ?」
「アイアムグルート!(ボク、一緒に寝てくるから!)」
「えっ、うん。おやすみ」

グルートはそのまま俺を睨んだ後、ロケットの部屋に入っていった。なんで俺を威嚇しようとしていたのか分からない。しかし、懸案事項も無くなったし、真面目にリーダーやらないとな。ヨンドゥにも笑われてしまう。
 そんな悠長に考えていてこの時の俺はこの先グルートがことある毎に張り合ってくることになるとは知るよしもなかった。

 そして二日くらい経って俺はようやく違和感に気付く。

「おーい、誰か手伝え!」
「分かった、手伝「アイアムグルート!(ボクがやるよ!)」

「おいクイル、船の――」
「アイアムグルート!(ボクに任せて!)」
「おい、オレはクイルに……」
「アイアムグルート!(いいから!)」

最近、このようにロケットが俺に話そうとしたり俺がロケットに関わろうとするとグルートが間に割り込んでくる。あまりにも露骨なので皆も怪しんでいるが特に実害がないので放置されている。ロケットもおかしいと思っているようだが話そうにもグルートが邪魔するので話せない。どうしていいか分からずにいるとクラグリンが近付いてきた。

「最近木のボウヤがお前を威嚇してないか?」
「……なんか、ロケットに近付くと凄く威嚇されるんだよ」
「なんかしたのか?」
「何かしたどころかわかだまりが溶けて仲を深めようと思ってた所だったんだけどな」
「じゃあ、それを邪魔したいんだろ」

俺がロケットと仲良くなるのを邪魔する意味が分からない。前の会議の時は普通に提案してくれていたし何があったんだ。

「理由、分かるか?」
「明らかにお前だけを邪魔してる所を見るに相棒の座でも盗られると思ってるんじゃないか。なんとかして三人で話す場を作ったらどうだ」
「折角ロケットとのことが解決したのに次はグルートか……」
「リーダーやるからには人間関係のトラブルは付き物だ。俺が話してくるから頑張れ」

そう言ったクラグリンが作業中のロケットとグルートに近寄って話していた。やたらこなれた様子だったので何故か考えるとクラグリンはヨンドゥの側近だったので間に立って仲を取り持つ事も多かったからだと考え付く。ヨンドゥは誤解されやすい性格をしているし、日常茶飯事なのだろう。
 同情交じりにそのまま見ていると話がまとまったようでクラグリンが此方に戻ってきた。

「よし、今行け」
「今!?」
「早い方が良いだろ。ラヴェジャーズでもそうだった」

ラヴェジャーズ式をスタンダードにされても困るが確かに早い方が良いか。ロケットとグルートに近付くとグルートが俺を睨み、ロケットがそれを見て首をかしげていた。

「おい、グルート。お前最近おかしいぞ」
「アイアムグルート!(おかしくない!)」
「えっと、グルート、なんで最近俺とロケットが絡む度に割り込んでくるんだ?」
「アイアムグルート……(だってちょっと二人きりになってただけであれだけ親密になるのにもっと居たら……)」

つまりクラグリンが言ったとおり俺とロケットが仲良くなるのが嫌らしい。でも普通にチームの一員なのだから多少の交流は許してほしい。

「つまり俺がロケットと仲良くなるのが嫌ってことか。というか、言うほど親密になってたか?」
「アイアムグルート(だって、告白されて二人は付き合うんでしょ?)」
「えっ」
「はあ!?」

グルートの言葉に俺とロケットが反応する。グルートは一体何を言ってるんだ。そんな話一つも……あ、なんかグルートとした会話を思い返すとそう取られてもおかしくない気がする。

「どういうことだ、オレがいつ告白したよ」
「アイアムグルート(だってこの前、告白されたか訊いたらされたって言ってた)」
「クイル、お前そんな下らねえ嘘を……」
「いや、俺はその恋愛的な告白じゃなく、秘密を打ち明ける方の告白だと思ったからそうだって言ったんだよ!」

ロケットが睨んできたので訂正をする。グルートはオレがロケットに告白されたと思ってこの態度だったのか。つまり、グルートはロケットを盗られまいとしているわけだ。

「アイアムグルート?(えっ、だって、そんな)」
「えーと、つまりオレとクイルが二人で居ると甘い雰囲気醸し出すんじゃないかと思って割り込んでたってことか? 想像もしたくねえな」
「グルート、俺とロケットはそんなんじゃないから」
「アイアムグルート(今はそうかもだけど……)」

なんでロケットと俺がそういった関係になると思うのか。ロケットなんてちょっと素直じゃなくてアライグマみたいで可愛らしい外見なだけ――ってあれ、アスカヴァリア人より実は評価高いのでは。

「おい、クイルもっとなんとか言ってやれ」
「あーまあ、、一夜位なら良いかな……」
「アイアムグルート!(やっぱりそうなんだー!)」
「お前、何言ってんだバカ!」

俺の女性遍歴を考えれば普通にありな気がしてきた。宇宙で過ごしているとストライクゾーンもどんどん広がるのを感じる。

「いや、グルートに言われて始めて意識したけどアスカヴァリアの女性より高評価つくぞ」
「オレはそれを聞いてどんな反応すりゃ良いんだ。お前の採点基準どうなってんのか知りてえよ」
「アイアムグルート!(絶対ダメだからね!)」

グルートが必死にそう言うものだから逆に興味が出てきた。座っているロケットに頭に手を伸ばそうとする。どうせ手を払われるだろうなと思っていたが、特にロケットは何もしなかった。俺の手がモサッとした感触に包まれる。大した手入れはしていないので滑らかな手触りではないが普通の人間では持ち得ない感触だ。

「アイアムグルート!(ちょっと、抵抗してよー!)」
「別に減るもんじゃなし、これまで冷たくしてた分位は我慢してやるって決めてんだよ」
「へえ、じゃあ口説いたりしても良かったりする?」

グルートが騒ぐが無視して撫でてみる。手が触れるだけでもかなり心地よい。なら、もっと触れれば更に違った感想が得られるだろう。手を払わなかったということは少し期待しても良いのだろうか。

「アイアムグルート!(ダメ、盗らないで!)」
「別にグルートのものじゃないだろ」
「アイアムグルート(ボクの方が先に好きだった!)」
「なんの茶番なんだよこれは。オレの為に争わないでとでも言えば良いのか?」

ロケットがこの異常な状況に耐えきれなくなったのか茶化しに掛かる。グルートを弄ぶし罪な男だよ全く。よし、巻き込んでやろう。

「ロケット、どっちを選ぶんだよ」
「アイアムグルート(ボクだよね!)」
「おいこら、グルートを煽ってんじゃねえよ。本気にするだろ」

ロケットが俺に頭を撫でられながら冷静に言う。以前ならキレてもおかしくないのにメチャクチャ違うものだなあ。皆こんなロケットと接していたなんて本当に羨ましい。

「で、口説いても良い?」
「グルートが機嫌悪くするからダメだ」
「それじゃあグルート、半分こしよう」
「アイアム……アイアムグルート(えー……ボクが七割なら考えるよ)」
「勝手に所有割合決めてんじゃねえぞ。オレは十割オレのもんだ」

この返答を聞く限りきっとロケットは今のこの会話を大して本気にしておらず、俺とグルートが自分をからかっていると思っているのだろう。実際の俺はグルートをからかっているのだが。……今はそれでも良い。こうやってグルートをからかいつつ仲を深めるので十分楽しいのだから。

「おい、どした?」
「ああいや、もっと毛の手入れもしたらどうかと思って」
「お前らのせいで心休まらなくて荒れてんだよ。気にするならもっと労れバカ」

俺が無言で頭の毛を鋤いていたのが変に思われたらしくそう返すといつもの調子の返答が返ってきた。膝にでも乗せて毛を整えてやれたら楽しそうだな。

「なあ、今度ハサミとかで整えてやろうか? 多分この船では一番上手い自信ある」
「そもそも他の奴はんな知識すらねえだろうからそりゃ一番だろ。強いて言えばクラグリンか」
「アイアムグルート!(ボクも出来るよ!)」
「あー、気持ちだけ受け取っとく」

グルートも出来ると対抗してくるが流石に結果が見えているようでロケットも拒否するつもりのようだ。俺には否定しなかったから多分今度言えばさせてくれそうだ。

「そろそろ作業に戻って良いか? クラグリンから頼まれて中断してるだけだしな」
「ああ、分かった。グルート、これからはライバルだから妨害も望むところだ。その方が燃えるしな」
「アイアムグルート(絶対負けないから)」
「クイル、お前が良いならこれからもグルートの相手してやってくれよ」
「あー、いいよ」

ロケットはこの会話の内容を全く本気にしていないようだ。きっと自分が愛されるイメージが無いから、まるで他人事のように感じているのだろう。俺はその顔が慌てふためく姿が見たい。その為にはグルートの協力も要るだろう。これだけグルートは分りやすく好意を寄せてるのに流されてるのを見るに彼も苦労している筈だ。
 毛を鋤いていた手を離してロケットをじっと見る。

「なんだよ」
「何でもないよ。じゃあグルート、今度二人で話そう。それなら文句無いだろ?」
「アイアムグルート(うん、分かった)」
「へえ……」

一昨日、ようやくわかだまりも溶けて仲を深める一歩を踏み出せた。ロケットとは仲良く出来れば良いなと思っていた。しかし、それではいつか我慢が出来なくなるかもしれない。そうなった時のために俺は準備をしていよう。

 そしてこの時の俺は、ロケットは俺とグルートが付き合っていると勘違いしており、そのことに気付いた俺たちが共同戦線を張ることになるのをまだ知らないのだった。
 

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