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sin

Lost child(スタロケ)

 

過去のツケというものは、唐突にこちらの都合を考えず訪れる。
偶然通りかかった星で、不運にも以前騙してケンカを売ったまま放置していた奴らと鉢合わせた。豊富な銃器が揃う店だ。当然だ、同業者であれば。
一緒にいたクイルから隠れながら、店の外に出ると予想通り追いかけてきた。ここからあのリーダー面のへっぽこ・ロードから離れれば巻き込むことはない。ミラノ号を停泊している場所とは正反対の方向に向かって走る。図体のでかい向こうより、こちらの方が逃げ足は早い。適当に撒いて、さっさとこの星を出れば余計な荒波を立てることはない。
敵を前に背を向けて逃げることに、若干屈辱を感じるが面倒を起こさないためにはこれが一番だった。わざわざせっかく味方についたノバ軍を敵に戻すこともなく、あいつらの悪評が広まることもない。
路地裏に入り、まだ追ってくる奴らの何人かを足止めしようと背負ったレイザーガンに手をかける。放置されたごみ溜めの陰に隠れて、電磁パッチを適当に放った。ゴミにまぎれたのを見て、赤く錆びた梯子を駆け上がった。目下に愚かにも追いかけ続けてきたアホ共が集まる。
手首のパネルをいじり、電磁パッチを発動させた。悲鳴と電流のアンサンブルを聞きつつ、レイザーガンで頭や肩を狙う。そこらのごみ溜めにも命中したレイザーガンの熱で煙がたちこめるなか、電磁パッチが割れる音がする。目を凝らす前に、足場にしていた梯子が揺れ、次の瞬間には宙に投げ出されていた。
ジェットパックを起動させるも、向かいの壁に叩きつけられて壊れてしまった。生ゴミがクッションになったが強く背中を打ったせいか起き上がれない。
ゴミの中で沈んでいると、薄汚い爪がついた手が無遠慮に漁ってくる。慌てて這い上がると、ひと際丈夫そうなやつが俺を見ていやらしく笑った。
迫る手を避けて、レイザーガンを探すが生ゴミの中に置いてきちまった。あるのはポーチの中のおもちゃみたいなナイフと、バリア用マグネットぐらいだった。奴は水漏れしているパイプを引きちぎると、こちらにぶん投げてくる。それを避けながら、痛む体で逃げ回るしかない。走って、ドブの水溜まりにまみれようが足を止めなかった。
助けは呼べない、俺の運が尽きてなければ、ここでドラックスが来てくれればいいが、あいつはミラノ号で昼寝してるのを最後に見たはずだ。
角を曲がり、足が止まる。駆け上がるには高すぎる壁、用済みとなった新聞紙の切れ端しかないそこには、足場も土台もない。自分を覆う影を振り返った。ポーチに手を忍ばせて、ナイフを取り出す。隙ができればそれでいい。
俺の胴体よりも太い腕が伸びる。地面を蹴って、奴の背後に回って背中を切りつけるが浅い。ガモーラが持つような剣ならまだしも、俺の手に収まりやすいそれはキャンプ用としてあのへっぽこ・ロードに持たされたものだ。
空を切って振るわれる拳を避けて、背中が壁に当たる。横に避けると、自分が今までいた場所が粉々に砕けた。強化しているとはいえ、一発でも当たれば骨が確実にイっちまうだろう。
頭を掴もうとする手を姿勢を低くすることで避けて、奴の膝に足をかけて、懐に入り込む。片目をつぶせば、さすがに大人しくなるだろう。ナイフの切っ先を向けて、突っ込む。がきん、と何かが砕ける音がした。奴はナイフの切っ先を歯でくわえて、汚い歯を見せて笑うとそのまま噛み砕いた。呆気なく壊れたナイフに気を取られているうちに、強烈な一発が腹に入った。吹き飛んで、俺の逃げ場をふさいだ壁にぶち当たる。頭も打ったのか、視界がぼやけていた。
首を掴まれて、持ち上げられる。奴の腐った魚みたいな息が不快だった。何か言ってるが聞き取れねぇ。どうでもいいか。ぐ、と気管が絞まる。奴の手に爪を立てるが無意味ってことはわかってた。せめてもの抵抗というやつだ。
まさかここで終わりが来るとは、思わなかったけど。グルートの世話はあいつらがやってくれるだろう。新しい技術士がすぐにストライキを起こさないか不安になる。近接戦闘が得意なやつらばっかりだから、遠距離で戦えるやつも必要だ。あいつら、ちゃんとそれが理解できてりゃいいけど。
まあ、あいつがいるから、大丈夫か。
口の中にたまった血を奴の顔に吐いてやった。頼むから、俺のことはさっさと忘れてほしい。
不意に、奴の手の力が弱まった。いや、弱まったというよりかは、誰かに頭をいきなり殴られて気絶したって感じだった。でかい図体が倒れたおかげで、薄暗い路地裏に光が戻る。目がやたらとチカチカする。誰かが近付いてくるが、誰かはわからない。だが、匂いは覚えがあった。しみついた、甘ったるい洗剤のにおいだ。
抱えられる腕の体温は不思議と嫌じゃなかった。自分の汚れた体が気になるが、身をよじると力が強くなる。目をこすり、鮮明な視界が戻った。青空と、ヘーゼルの瞳、見飽きた面は店に置いてきたはずだった。
「迷子にしちゃ遊びすぎだろ」
「……ナイフ」
「ん?」
「壊した」
「また買えばいい」
暖かい腕の中は瞼が重くなる。いつもなら引っ掻いて抜け出してるところだが、このままでいてやるか。

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